＜2＞

その人が乗ってきた車に乗り込む。
そのときまでは、特に考えていなかったが、車を走らせ、
自動ロックが降りた音を聞いた瞬間、ミミは逃げ出したくなった。
いくらやさしそうで、まじめそうだからと言っても、初対面の見ず知らずの人と
個室で二人きりなんて、怖かったのだ。

「まだ、名乗っていませんでしたよね。僕は、泉光子郎と申します。22歳です。」
ミミを緊張させないように、ゆっくりと丁寧な運転で、その男の人は自己紹介を始めた。
「あ…あたしは太刀川ミミ、18歳よ。」
「太刀川ミミ…。」
光子郎は、ミミの名前を小さくつぶやくと、何かを考え始めた。

一方、だいぶ落ち着いてきたミミは光子郎を観察し始めた。
『なかなかやさしそうだし、まぁまぁかな。4歳年上か…エリートっぽいし、好みのタイプかも。』
「太刀川さん、何が食べたいですか？」
じっと見つめていたら、光子郎は前を見つめたまま、
でも、少しだけ顔をミミのほうへ向け質問をしてきた。

ミミは少しだけ、どきどきし始めていた。
「ミ…ミミで良いよ。食事は…なんでもよい。お任せします。」
「じゃあ、お任せさせていただきます。ちょっとだけ、ドライブしますね。」

しばらく車を走らせ、光子郎は海の近くの小さめなレストランに車をとめた。
レストラン内に入ると、店長が出てきて、特別室に通された。
「光子郎さんって、すごいんですね。」
「ここは好きで、よくくるんです。それでこんな待遇をしてもらえるだけですよ。」
照れたように笑う光子郎に、ミミは今までの印象と違う何かを感じた。
車内で打ち解けていた二人は、楽しい食事のひと時をすごした。