＜1＞

思わず家を飛び出したミミは人通りの多い道端に座っていた。
「まぁーったく、パパにはあきれちゃうわ。お見合いだなんて…。
アタシにはまだ早いわよ。」
大好きなパパにお見合いを勧められて、驚いたのと裏切られた気がして
怒って家を飛び出してきたのだ。

「…どうしようかな。」
家に帰りたくなかった。
そんなミミの心を知らずに、辺りはどんどん暗くなっていく。

「お腹すいたなぁ。」
両足を抱え込むように座り込み、顔をうずめる。
と、ミミのそばで車が止まり、若い男の人が降りてきた。
「あの…。」
いきなり声をかけてきたその人にミミは身構える。
『何！？ナンパ！？でも、そんなことをするようには見えないけど…。』
返事もせずに躊躇していると、その人はにっこりと安心させるように微笑んだ。
「こんな所で何をしているのですか？この辺りは暗くなると危ないですよ？」
話し掛けられた内容に、少しがっかりする。
「ナンパかと思ったのに…。」
「え？」
ミミのつぶやきに、男の人は聞き返す。
「なぁ～んでもなぁい。いいの、今日は帰りたくないんだもん。」
ぷいと横を向きながら、拒絶をする。
見知らぬ人に、お説教なんてされたくなかった。

「そんな…。あれ？どちらかでお会いしたことないですか？」
ミミの顔をじっと見つめていたその人は、とんでもないことを口にする。
「ナンパの手口ね。…会ったことないと思うけど？」
いまどき、そんな誘いの仕方をする人が、いまだにいるんだと思いながら、
実際、悪い気はしなかった。
結構格好よいし、好みのタイプだったから。
ちょっとお堅そうだけど、まじめそうだし。
まぁ、何かされたとしても、振り切れるだろうから…。
「あっ！！決してそんなつもりでは…！！すみません、変な事を聞いてしまって…。」
慌てて先ほどの言葉を取り消す。いい大人が、こんな小娘に…。
その慌てぶりが、可愛く見える。
「…でも、もう少しお話をしていたら、何か思い出すかも…。」
と、言った時、ミミのお腹が鳴った。
一瞬、顔を見合わせる二人。
「あ…あの…。」
ミミは何かフォローしようとするが、上手く言葉が出てこない。
そんなミミの様子を見ながら、若い男の人は誘いをかけてきた。
「宜しければ、お話がてら、お食事にお付き合いいただけますか？」