小さなうそ

「久々の日本だ〜。」
雨が上がったばかりの新緑。
空気が水のにおいと緑のにおいを届けてくれる。
季節はこの季節が好き。
どの季節も好きなんだけど、この時期はまた格別に好き。
植物が生長する季節はこっちまで元気パワーをもらってるみたいで、元気が出るんだもん。

「ミミさん。」
空港のいつもの待ち合わせ場所で、光子郎くんが手を振っている。
一瞬、誰かと思っちゃった。
だって、すごくかっこよくなってるんだもの。
昔に比べて、光子郎くんってば、身長も伸びたし。
学校でももててるみたいで、京ちゃんからくるメールの内容にちょっぴり不安になる。
お互い告白はしたけど、なんせ遠恋だから思うように会えないし、
一緒にいられないから、時々不安になるの。
「あれ？光子郎くん、一人？」
「えぇ、皆この時間は都合がつかなくて…。明日会えるのを楽しみにしているって
伝言を言付かってきました。」
前まで、太一さんや空さんが、光子郎くんと一緒に迎えにきてくれていたのに。
そっか〜、やっぱり都合がつかなかったか。
今回の帰国は、かなり急だったからなぁ。
そういえば、光子郎くんって、いつも迎えにきてくれるんだよね。
「ごめんね。」
本当は用事があったりするんじゃないのかな？
アタシのせいで予定をつぶしているなら、申し訳なさすぎる…。
「何がですか？」
にっこり笑って尋ねてくれる。
いきなり話が飛んじゃうの、アタシの悪い癖なのよね。
「本当は用事があるんじゃないの？アタシなら一人でもお台場までいけるから…。」
理由を言うと光子郎くんってば、にっこり笑って、そんな事かとで言うように。
「はずせない用事があれば、帰国連絡のメールを頂いた時点で、そう返事しますよ。
第一ミミさん、本当に一人でお台場までいけますか？」
「う…。」
そういわれて言葉に詰まってしまった。
前に帰国したとき、皆時間の都合がつかなくて、一人でお台場まで行くことになったんだけど…
結局迷っちゃって、光子郎くんに迎えに来てもらちゃったんだっけ。
「…無理です…。」
「ミミさんが気にするような事じゃないですよ。彼氏が彼女に付き合うのって、普通でしょ。」
ゆっくり駅に向かって歩いていたアタシの足が止まった。

…今、ものすごい事を聞いた気がする…。
動かないアタシに気がついて、光子郎くんも振り返ってくれる。
「その…迷惑でした…か？」
やだ、そんな事、ない。そんな、困ったような、後悔している顔、しないで。

ぶんぶんと頭をふって否定する。
「違うの、うれしかったの。」
「ミ…ミミさん…。」
光子郎くんのあせった声を頭上で聞きながら、アタシは泣き出してしまった。
おずおずと抱きしめてくれる感覚に、またうれしくなって、涙が止まらなかった。


お台場に向かう電車の中で、聞き出した事。
光子郎くんってば、今回も前回も太一さんや皆にはアタシの帰国を一日ずらして
伝えていたみたい。
しかも、迎えにこなくて良いって、アタシが言ってたって。
「どうして、そんな事を…。」
思わずつぶやいた言葉に、光子郎くんってば、真っ赤になって、
「ミミさんを独り占めしたかったんです。」
だって。