乱反射の気流

光子郎くんてば、最近意地悪なの。
この間だって友達と買い物するって言ったら『一緒に行きます。』だって。
女の子同士でいくんだよ？
そりゃ、光子郎くんを皆に紹介したくない訳じゃないけど、ううん、むしろ
紹介したいけど、女の子同士で楽しみたい時って、あるじゃない。
だから…。


「あ、今週末、遊びに行ってくるね？」
「…誰と、どこへです？」
デートの途中で入った喫茶店でお伺いをすると、案の定予想した答えが返ってきた。
「中学の時の友達と。どこか買い物にでも行こうかって。」

喫茶店は結構冷房がきいてて、涼しかった。

目の前のアイスティーの中の氷がカランと音を立てた。
それをじっと見ていた光子郎くんは、ちょっと考えて
「女の子同士ですか？」
「そうよ？」
うなずいたアタシの耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。
だって、光子郎くんが、よ？

「では、僕も行きます。」
「…え？」
一瞬、本当に理解できなかったわ。
なんで、そんな事、言うの？
どうして一緒に来るの？
一緒にいれるのは嬉しいのよ。
でも、女の子同士で買い物に行くだけだよ？

だから、思わず言ってしまったの。

「女の子同士で、買い物に行くだけよ？なんで？」

喫茶店を出て、小道を歩く。
店内では光子郎くんってば、何も答えてくれなくて、アタシも見てくれなくて。
ただ、一言。

「外に出ましょう。」

…わかんないよ。光子郎くんてば。
アタシの手はしっかりと握られている。ちょっと引かれる様にして、歩いている。
まるで離したら、一生失ってしまうんじゃないかって思ってるのかな？
そんなの強く握らなくても、逃げないのに…。
…不安、なの？もしかして？

「光子郎くん、大好きよ。」
考えるより先に、言葉が出る。
前を歩いていた光子郎くんが、ピクリと反応して、そのまましゃがみこんでしまう。
「こ…光子郎くん！？」
やだ、どうしちゃったの？気持ちを話すタイミング、間違えちゃったのかな？
握られた手はそのままで、でも、より一層強く…。
引かれる様にして、一緒にしゃがみこむ。
そして、そのまま光子郎くんの顔を覗き込んだ。

――あ、真っ赤…――

「…ミミさん…。」
隣りで覗き込んでいるアタシをちらっと見ると、勢い良く立ち上がり、
アタシの手を強く引いて、誰もこないような脇道にはいった。

「ちょ…！光子郎くんっ。痛いってば！！」
強くてを握られたまま、壁へ追い込まれる。
なに？どうしちゃったのよ？光子郎くんてば。
嬉しそうな、切なそうな顔しちゃって。

「どうして、いつも…。」
「え？」

つぶやいた言葉が良く聞こえなかった。
聞き返したアタシの唇を何かがかすめた。
と、同時に強く抱きしめられる。

「僕の欲しい言葉が解るんですか？」
耳元で囁かれる。

ん、もうっ。アタシがそこ、弱いの知ってるでしょ。
逃れようと身じろぎするアタシを強く抱きしめる。
「ミミさんがどんどん奇麗になるので、不安だったんです。」

置いて行かれそうで…。誰かに取られそうで…。

囁かれる言葉に、ドキドキする。
やだ、光子郎くんも一緒だったんだ。
アタシだって不安だったんだよ？
カッコ良くなっていく光子郎くんが。

同じ気持ちを持っていたのね。

「アタシは光子郎くんから離れないわよ。好きよ？大好き。
…だから、来週、遊びにいってくるわね？」