月水晶の森

「暇だなぁ。」
ぽつりとつぶやく。
ちょっと広めの部屋で、ソファーで横になる。
昨日、バタバタしてたから、まだ、パジャマのまま。
光子郎くんってば、ちゃんと学校に行ったんだ…。
アタシは今日はオヤスミなので、家でゴロゴロ出来る。

昨日は友達と飲んで帰ったらすごく酔っ払っちゃって、家に着いた瞬間、
すごく怒られたっけ。
ミミさんは無防備すぎます！って。

その時の光子郎くんの顔、後から考えてみると、拗ねてるだけって感じだった。
思い出して、くすくす笑う。
なんか、久々に見たなぁ、ああいう光子郎くん。

「よっ…と！」
ソファーから身体を起こす。
どうしようかな？何を着ようと周りを見まわすと、ソファーに引っかかっていたＹシャツが
目に入った。薄いオレンジのカラーＹシャツ。
「光子郎くんてば…めずらしい…。」
いつもはきちんとしまっているのに、こんな所においておくなんて。
着ていたパジャマ代わりのＴシャツを脱いで、袖を通してみる。
素肌に触れる布が、気持ち良い。

姿見の前で、くるりと回ってみる。
袖は手がすっぽり包まれてるし、裾も太股まできている。
「わ～、こんなに大きいんだ。」
小学校の時はアタシの方が大きかったのに。
なんだか複雑。

そのままポスンとさっきまで横になっていたソファーに倒れ込む。

光子郎くんはラフな格好より、ある程度キチンとした格好の方が好きみたい。
セーターとかより、Ｙシャツの方が持ってる枚数、多いのよね。
でも、その方が光子郎くんらしい。
中学の時だって、きちんとネクタイもしてたし…。
今も、大学に行ってるけど、Ｔシャツとかで行ってる姿なんて、あまり見た事ないし。

ソファーに横になりながら、アタシはまたうとうとしはじめた。
光子郎くんの香りに包み込まれながら、また、夢の中。

「ただいま帰りました。」
光子郎は玄関を開けて家の中へ入る。
昨日、遅くに帰ってきたミミが部屋で寝てるかもしれないと気を使いながら。
だから、リビングのソファーでＹシャツ一枚で眠るミミを見つけた時に、光子郎は声を無くしてしまった。
「…！！ミ、ミさん。」
思わず口元を手で抑え、半歩あとずさる。
ミミは光子郎が帰ってきた事も気がつかずに、眠り姫よろしく気持ち良さそうに寝ている。
目が離せなくなっている光子郎にまったく気がつかず、ミミは寝返りをうった。
すそがめくれあがり、太ももがあらわになる。
「ミ…ミミさん！！起きてください！！」
慌てて光子郎はミミに触れない様に声をかけた。
「ん…？あ…光子郎くん、お帰りなさい。」
「お帰りじゃないですよ！早く、服を着てください！！」
寝ぼけて上半身を起こした状態のミミを直視しないように、光子郎はミミに服を着るようにうながす。
「…この服、着るつもりだったの？」
上着を脱ぎ、ハンガーにきちんとかけている光子郎にミミは不思議そうにたずねた。
「そういう意味ではありません！！」
真っ赤になりながら光子郎は、ミミから少し離れた位置に、腰を下ろした。
「と…とにかく、きちんと服を着てください。…僕以外の人に見られたらどうするんですか！？」
照れて視線を部屋中さまよわせている光子郎に、ミミにいたずら心が湧き上がった。
「光子郎くん以外に、この部屋に、誰が入ってくるのよ？」
「ミ…ミミさん！！」
ミミはくすくすと笑いながら、ソファーに腰掛けている光子郎の太ももに、上半身を預け、
ちょうど腹ばいになった体制をとった。
その様子は、光子郎の位置から見ると、かなりきわどい格好だった。
「…襲いますよ？」
「ん～～～？何か言った？」
低くつぶやいた光子郎の言葉は届かなかったようで、、ミミは無邪気に足をバタバタさせている。

そんなミミに光子郎はにっこりと笑い返す。が、目は笑っていなかった。
ミミはその笑い方に、さすがにまずいと思ったが、時、既に遅し。
あっさり光子郎に組み敷かれてしまった。

「こ…う、しろう、くん…？」
「無防備すぎるんですよ。ミミさんは。」
唇が触れ合うほどに顔が近づく。

そして…。

「光子郎くんのＨ。」
「ミミさんの所為ですよ。」

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いい加減、解って欲しいんですけどね。
僕がどれだけ我慢しているか。自分にどれだけ魅力があるか。

腕の中で眠るミミさんを見つめ、小さくため息を吐く。
でもそれは、苦痛のため息ではなく…。
「これはこれで、幸せですけれど…。」

ミミさんが起きない様に、ゆっくりと身体を起こす。
ソファーなんかではさすがに二人は眠れない。
「このまま移動しますか…。」
いつのまにか、ミミさんを抱きかかえられるぐらいになってしまった。
柔らかい、女性特有の身体。
ミミさんの身体にかけた僕のＹシャツが落ちそうになる。
そのままそっと寝室のドアを開け、ベットに横たわらせる。

Ｙシャツをしっかりつかんでいるミミさんの手が、目に入った。
「そんなに気にいって頂けたのですね。ありがとうございます。」

僕は少し考えて、寝室の扉を閉め、そのままミミさんを抱えて眠りについた。

　

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