万華鏡の恋人たち

電車に乗って、改めて気がついた。
…光子郎くん、背が伸びた。
厚底靴を履いているのに、目線が少し上になる。
そうやって離れている間に、どんどん変っちゃうのね。
男の子から、男の人に変わる途中。
…この人はこの先、どんな風に代わるのだろう？

「どうしたんですか？疲れましたか？」
じっと見つめていた視線を感じてか、光子郎くんは微笑みながら声をかけてくれた。
「ううん。なんでもないの。」
気づかれないように、笑って返事をする。
彼の成長に、少しショックを受けてしまった事を隠す。
あたしは本当は彼の隣りにいるべきじゃない…？
彼にはもっとふさわしい女の子がいるんじゃないの？
こんな事を思ってしまったあたしに気づいたら、きっと光子郎くんは
あたしを怒るでなく、自分を責めるから…。

電車がホームに入る。
窓越しに見えるそこは、人がひしめいていた。
あぁ、この駅は乗り換えのポイントだから、人が多いんだっけ…。
はぐれないように、光子郎くんの服にそっと掴まる。
だって、あまりぎゅっと掴まって嫌がられたら、ショックだもの。
こんな事、弱気に考えちゃうのは、何時の間にかかっこ良くなっていた光子郎くんのせい。

いつもと違う、弱気なあたしの雰囲気を感じてか、光子郎くんの手が伸ばされ、
あたしの背中に、触れないように回された。
「…すみません。でも、ここから先、混みますから…。」
気を使ってくれるのが嬉しい。
でも、もっと強引でもいいのに…。

ホームに電車が入り、ドアが開いたと同時に人がなだれ込んでくる。
案の定、あたしと光子郎くんは波に飲まれ、反対側のドアの方まで押されてしまった。
衝撃に耐えられるように、構える、が、さほどの苦しさはなかった。

…あれ？

ふと、視線を上げると、光子郎くんが庇ってくれているのがわかった。
あたしの視線に気がつき、にっこり笑ってくれる。
「大丈夫ですか？」
凄く苦しいでしょ？
凄い人が乗り込んで来てるんだもの。
ドアについている方の手に力がはいってるのが、わかるもの。
でも。
…すごく、嬉しい。
…すごく、かっこいい。
…キス、したいな。
と、思ってしまった。

「ミミさん？顔、真っ赤ですよ？」
やだ、光子郎くん、そんなに顔を近づけないでよ。
「苦しいですか？」
ううん、大丈夫。
でも、心配してくれるのがうれしい、と思った瞬間、行動は止まらなかった。
周りに人がいるのに、体が動く。
絶対怒られちゃう…。
でも…。

ほっぺに軽く、唇を触れさせる。
微風みたいなキスをする。
「ミ…！！」
光子郎くんがびっくりしたと同時に、ドアが閉まる。
ここぞとばかりに乗り込んできた人で、強く押されてしまう。
「…くっ！」
「きゃ…。」
あたしの思いがけない行動にびっくりして、力を抜いてしまった光子郎くんは
その人込みの力に負けてしまった。
それでも、あたしを庇うように抱きかかえてくれる。
光子郎くんの、腕の中。
強く抱きしめられる。

「…いきなり、あんな事をするなんてずるいですよ。」
耳元で囁かれる。
「…僕だって我慢していたんですから。」
光子郎くんも、同じ気持ちだったんだ。

ラッシュのおかげで少しだけ、光子郎くんに近づけた気がした。