リトルハリケーン

「あ、空さん！」
「ミミちゃん！！」
偶然お台場のオープンテラスカフェで空はＮ．Ｙに行ったはずのミミに出会った。
「いつ日本に帰ってきたの？」
「今日です。」
空は不機嫌そうなミミに、いすを勧める。
「とりあえず、何か飲まない？」
「…はい。」
ミミは手にしていた荷物をいすのそばに置くと、カウンターのある店内に向かっていった。
空はその後姿を見送り、店内に消えたのを見届けると、後ろを振り向いた。


ミミが飲み物を買い、空のいるテーブルへ戻ると、腰掛けるや否や、喋り始めた。
「空さん！聞いてもらえますか！？」
怒っているミミの様子に原因に検討がつきつつも、空は話を促がした。
「一体どうしたの？光子郎くんと喧嘩でもしたの？」
「だってーーー！！」
やはり、光子郎と喧嘩したようで、ミミは弾丸のように喋り始めた。
「久しぶりに日本に来たから、いろいろな所に行こうって言ってるのに、ホテルに帰そうとするし、
電車の中でも人の話、聞いてないし。パソコン持ってないのに、無視されたんですよ〜！」
ダン！とテーブルをたたくミミを空は宥めた。
「…光子郎くん、ミミちゃんが可愛くて、驚いちゃったんじゃない？」
ミミの服装を眺めながら空はにこりと笑った。
「ビスチェ、でしょう？ミニスカートだし…。光子郎くん、ドキドキしちゃったんじゃないかしら？」
「このぐらい、普通だと思うんですけど…。」
アメリカなれしているミミには普通だと思えるのだろうが、今日の服装はかなり大胆なものだった。
胸元の大きく開いたビスチェに膝上20cmぐらいのミニスカート。
すごく似合っていて、十分着こなせているのだが、光子郎には刺激が強すぎたのだろう。
実際に、椅子に座っていても、そばを通る男性の視線をも集めている。
光子郎だけでなく、男性にとって刺激が強いのだろう。

「…日本じゃ、普通じゃないんですよ。」
その言葉とともに、上着がミミの肩にかけられる。
「！光子郎くん！！」
驚いて振り向くミミ。
まったく…と言うような顔をしてみせ、ミミの肩に光子郎は手を置いた。
「空さん、ご迷惑かけて、すみませんでした。…ほら、ミミさん、行きますよ？」
「…知らない。別にあたしのことなんて、どうでも良いくせに。」
光子郎の言葉にプィッと横を向くミミ。
まだ機嫌は直っていないようだった。
「ミミちゃん、光子郎くんは周りから貴方の事を守ってくれたんじゃない？」
「え？」
「そ、空さん！！」
取り付くしまがなく困っている光子郎に、空は助け舟を出す。
「何処行ったってその服装じゃ、いろんな人の視線をあびるわ。もしかしたら、
痴漢とかにだって会うかもしれない。そんな人たちから、守ってくれてるんじゃないかしら？」
にっこりと笑う空に、ミミは光子郎の顔を見た。
「光子郎く…。」
本当なの？と、続けようとした言葉は空中で消えてしまった。
そこに光子郎の真っ赤な顔があったからだ。
言葉にするより、雄弁にその態度が示している。

「…ほら、ミミさん、いきますよ！」
光子郎はその顔を隠すように、強くミミを自分の方へ引き寄せた。
「空さん、すみませんでした。では、失礼します。」
「ちょ…こーしろーくん！！空さん、ごめんなさい！！」
「はいはい、気をつけてね。」
半ば、光子郎に引きずられるようにして、ミミは歩いていたが、ふと何かに気づくと大声をあげた。
「そらさぁーん。本当にごめんなさい！影にいる人も、ごめんなさぁい！」

「…わかっていたのかな？」
「そうかもしれないですね。」
空の席の後ろの方から、丈が顔を出す。
「先輩、すみませんでした。」
さっきまでミミが座っていた席へ、丈は腰をおろす。
「いや、いいんだよ。ミミちゃんはかわいい妹みたいなものだし。実際、暴走したら
僕では止められないからね。空君なら、その前に宥める事が出来るだろう？」
にっこりと笑う丈に、空は胸の奥が暖かくなるのを感じた。

「さ、空君、時間が押してしまったね。どこにいこうか。」
「丈先輩となら、どこまでも。」