クリスマスコール

『後少しでクリスマスだね。』
『そうですね。』
『今年はホワイトクリスマスになるかな？』
『どうでしょう？例年より暖かいようですし。』

お互いに言えないでいる。

去年のクリスマスは、お互いを意識する事なく普通に過ごしていた。
ミミは友達とホームパーティーをしていたし、光子郎は家族でクリスマスを祝っていた。

でも、今年は違う。一緒にいたい人がいる。
なのに、言い出せない。
明日はクリスマスイブなのに…。

秒針が12時を回った。
『メリークリスマス、光子郎くん』
『メリークリスマス、ミミさん』
お互いチャットで話す。

―今なら伝えられるかもしれない。―
今夜、2人だけで逢いましょう。

お互いに言えないでいる。

『なんか、去年からは考えられないな。』
ミミからのメッセージが表示される。
『こうして、チャットしている事がですか？』
解っていながらも、核心を避けてしまう。

ミミからの返事はなかった。
『ミミさん？』
何度か呼びかける。
怒らせてしまったのか、回線が切断されてしまったのか、眠ってしまったのか。
光子郎の呼びかけが、画面の半分をうめた。
「落ちたようですね…。」
本当はもっと、ミミと話をしていたかった。
「こんな事をしているなら、直接逢えば良いのでしょうけど…。」
逢えないとなると、気持ちがつのる。
いちかばちか、メッセージを送る。
『今日、逢えませんか？』
ミミは見ていないかもしれない。でもやはり、リアルで逢いたい気持ちがあった。
見てないかもしれないからこそ、送れたメッセージであった。
もしかしてと思い、しばらく待つが、ミミからのメッセージは書き込まれなかった。
仕方なく、切断する。
初めからちゃんと言いたい事を言えば良かったと思いながら。

PCの電源を落とし、ベットに入ろうとした時、携帯が鳴る。
番号を知っている人なんて、かぎられており、あまり鳴らない電話だった。
こんな時間に誰だろうと不信に思いつつも手に取り、着番をみて、慌てる。
すぐに電話に出る。
「ミ…ミミさん！？」
「光子郎く〜ん。外！」
聞こえる声は紛れもなくミミのものだった。
少し震えている声。

ミミの声に導かれるまま、窓をあけ、空を見あげる。
「わぁ、雪だ。」
真っ暗の空から白い雪がちらほら落ちてきていた。
「でも、これだけではすぐやんでしまいますね。」
『いいの。今だけでも降っていてくれれば。』
距離はあってもミミと同じ空を眺めている。
それだけで、光子郎の胸は熱くなった。
『だって、光子郎くんと同じ空を見れたんだもの。』
その声を聞いたとき、光子郎の中で何かが弾けた。
「ミミさん。」
携帯を片手に上着を羽織る。
『ごめんね、チャット。雪が降っているのが見えたから…。でも、メッセージ見たよ。』
ミミの声を聞きながら、家族を起こさないように静かに玄関の扉をあける。
『アタシも逢いたい。』
「すみません。もっと早くに言っていれば良かったですね。」
『ううん。言ってくれてうれしかったから…。』
光子郎は走る。ミミの家のほうへ。
『？光子郎くん？今、どこにいるの？』
受話器から聞こえる風の音に、ミミはたずねる。
「外です。ミミさん、少しだけ逢えますか？今、ミミさんの家の近くなんです。」
『え！？』
動揺するミミの声。
ミミの家のある階へ急ぐと、踊り場で見慣れた人影が見えた。

「ミミさん！」
『光子郎くん！？』
電話と目の前のミミから声が聞こえる。
寒そうに、背中を丸めている。
光子郎を見つけ、本当にうれしそうに微笑む。

そのミミの姿を見ると、光子郎は電話を切り、駆け寄り強く抱きしめる。

ぬくもりでお互いを認識しする。
しばらく抱き合っていたが、体を少し離しながら、顔を見合わせる。
「からだ、冷えてますよ？いつからここにいたんですか？」
「電話をかけたときから。光子郎くんこそ、冷たいじゃない。」
お互い、抱きしめる。今度はぬくもりを分け合うように。
「メリークリスマス、ミミさん。」
光子郎はミミの顔に手をそえると、少し上を向かせた。
そして、そのままキスを送る。
唇を十分に味わい顔を離すと、真っ赤な顔のミミがいた。
「〜〜〜メリークリスマス…。」
どうやら恥ずかしいようで、下を向いてしまう。

「やっぱり逢いにきて良かったです。」
え？という顔をするミミにもう一度キスをする。
「…んっ。光子郎くんってば…。」
「こうしてミミさんを抱きしめることが出来たんですから。」
にっこりと微笑む。
「ミミさんは？」
光子郎に言葉を促され、ミミは目の前のサンタに抱きつき、キスを送る。
「アタシだって、同じ気持ちだよ！」

小さな恋人たちを祝福するように、雪はいつまでも降り続いていた。