トライアングル
「ミミお姉様っ！」
「なぁに？京ちゃん。」
久し振りにミミさんが帰国した。
今日は二人きりでデート…のはずだったのに…。
「別にいいんですけど…。」
彼女も大切な後輩だから。
でも、あまり、一人占めしないで欲しい…なんて、思ってみたり。
…心が狭い証拠でしょうか…？
「なぁに？光子郎くん？」
「あ、いいえ、何でも…。」
僕の視線を感じて、ミミさんが振り返る。
その笑顔にですら、ドキドキしてしまう。
「ミミお姉様！ほら、これ見て下さいよぉ。」
…折角話し掛けてくれたのに、また…。
にこやかに笑う大切な人と、大切な後輩を後ろから眺める。
「…仕方、ないですね…。」
京くんにうっかり、ミミさんの予定を話してしまったのが、運の尽きですね。
ちらりとミミさんが僕を見ている。
…いいですよ、今は。
苦笑してみせる。
多分、僕の言いたい事は伝わっていると思う。
うぬぼれ…じゃないと思うのですが…。
でも…。
あまりべたべたしないで欲しい。
同性同士と言うのは十分、解っているのですが…。
…ときどき、ミミさんを見つめる京くんの視線が、すごく気になる。
クラスや他の学年の男子からもそんな目で見られていたっけ…。
まさか、ね。
相変わらず二人は笑い合いながら腕を組んで、ウィンドウショッピングを楽しんでいる。
もう、そろそろ夕方になる。
思いたくはないけど…、言いたくはないけど…。
京くん、そろそろミミさんを開放して欲しい。なんて…。
「ねぇねぇ、ミミお姉様！年下の子って、お付き合いするのにどうですか？」
「う～～ん。あまり年が離れすぎるのも考えちゃうけど…。別に良いんじゃない？
お互いが好きだったら。」
突然耳に入る、二人の会話。
恋愛の相談…かな？京くん、年下に好きな人がいるのかな？
ちょっとした、安心が胸に広がる。
そうですよね、まさか、ね。そんな事は、ないでしょう。
「わ～～～。やっぱりそうですか！？」
嬉しそうにミミさんの腕にしがみつく。
―ピシ―
「じゃあ、同性同士…って、どう思います？」
「ん～～～。向こうじゃ、結構いたから…。あまり変には思わないけど。」
ミミさんの返事に、京くんが満面の笑みをたたえる。
「そうですよね！やっぱり偏見とか持っては駄目ですよね！！二人が愛し合っていれば
年令とか、性別なんて、小さな事ですよね！」
「きゃ！！み、京ちゃん！？」
ミミさんに抱き着く京くんに、切れそうになる。
ミミさんもミミさんで、驚いているが、嫌がってはいない。
まぁ、彼女にとっては可愛い後輩なのだから…。
でも…。
多分その時、僕の中の何かが外れたんだと思う。
しばらくウィンドウショッピングをしている二人の後ろにいた僕は、
京くんがミミさんから離れたのを見てーーーーー。
「はぁ、はぁ。」
「大丈夫ですか？ミミさん。」
ミミさんは荒い息を整えるように、大きく深呼吸をする。
「いったい…どうしちゃった…の？」
「…あ…。」
改めて、自分の行動を考える
京くんが、ミミさんの側を離れたすきをついて、さらうように走り出してしまったんだ。
「京ちゃん、きっと探してるわ。早くもど…。」
京くんを心配するミミさんに、ムッとなる。
「駄目です。」
僕に背を向けたミミさんを抱き寄せて、きつく抱きしめる。
「京くんのところになんて、行かせません。」
「…ん、もう。光子郎くんってば…。」
ふざけていると思って、僕の腕をはずそうとする。
「本気ですよ。」
耳元で囁く。
もう、限界だった。
この日をずっと楽しみにしていたのに…。
「え…。」
顔を僕の方に向ける、ミミさんの頬に手を添える。
「こう…。」
驚くミミさんに。
深い口付けを。
「光子郎くんでも、こんな事、するんだ。」
たっぷりと二人の時間を満喫していた僕らは、街の明かりが見えるテラスで
食事を取る事にした。
さすがの京くんも、もう帰っているだろう。
「いけませんか？」
テーブルの上のキャンドルを見つめるミミさんを、目を細めながら見る。
とても、奇麗だと思う。
「ううん。いけなく…ない…。」
キャンドルの灯かりに酔ったのだろうか。
そのミミさんの微笑みに引かれるように、テーブルの上に身を乗り出し、ミミさんに近づく。
周りを気にするミミさんに、優しく微笑む。
大丈夫、ここから見える範囲に店員も他のお客さんもいなかったですから。
あと、もう少し…。
「い、泉先輩！抜け駆けは無しですよ！！」
不意に聞こえた声に顔を上げると、入り口の方からものすごい勢いで近づいてくる
後輩の姿があった。
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