ソルティドック
デジタルワールドに来て、何日がたったのだろう。
ある時は無益な戦いを避け身を隠し、またある時は正面から戦う。
そんな日々が続いていた。
「留姫！引けったら！！」
「大丈夫よ。」
今回の敵は手ごわかった。
一休みしようとした場所を中心に調査しにきた留姫とレナモンはデジモンの攻撃にあってしまった。
最初は優勢だったが敵が仲間を呼び、３対１となってしまった。
さすがにこれはレナモンもかなわないと判断し、留姫を抱え、近くの森へ逃げ込んだ。
たまたまその森にいた健良、テリアモンと合流し、追いかけてくる敵と戦う事になった。
３対２となっても劣勢には変わりなく…。
自分の失態を健良に見せてしまったことが悔しい留姫はいつもの冷静さを失っていた。
敵の攻撃をテリアモンが跳ね返し、その隙をついてレナモンが攻撃をする。
「あっ！！」
テリアモンが後方にいるテイマーを振り返った。
攻撃をはじきそびれ、それは留姫の方へ向かっていた。
「きゃあ！」
「留姫！！」
とっさに健良は留姫をかばう。
倒れ込む二人の上を、それは飛び去っていった。
「いたた…留姫、平気？」
「…平気…。」
健良が庇ったお陰で無傷だった留姫を遠くからレナモンは確認する。
いつもの無表情には変わりなかったが、すこし安心した顔をしているようにもみえた。
「モーマンタイ。ルキの傍にジェンがいるからね。」
「…それはそれで心配なのだが。」
いつのまにか傍によってきたテリアモンの言葉に、レナモンは考え込む。
このまま二人きりにさせておいても良いのだろうか？
「レナモン、きりがないから一気にやっちゃおうよ。」
「そうだな。」
「ルキ、怪我はない？」
「平気。」
戦いを終えたレナモンとテリアモンがテイマーにかけよる。
座り込んでいる健良にテリアモンは飛びついた。
「ジェーン！」
「うっ！」
腕をおさえ、思わず声を漏らしてしまう健良に留姫はぎょっとした。
「怪我…したの？」
「たいした事、ないよ。」
「ジェン、腕、赤いぞ。」
レナモンの言葉に留姫は無理やり健良の袖を捲り上げた。
「る、留姫！！」
傷の痛みではなく、留姫の行動におもわず健良は声をあげた。
「！！」
留姫はあらわになった傷口に思わず息を飲んだ。
自分を庇ったときにすれたのだろう、裂傷が健良の腕一面に広がっていた。
傷口が見つかってしまった事を健良は悔いた。
留姫が自分のせいだと思いこむからだ。
「…薬草を探してくる。」
「んじゃ、僕はお水。」
「あ、お願い…。」
あっという間に消えてしまった２体のデジモンの声に留姫はようやく我に返った。
「ジェン…。」
素直になれないが、自分のせいで傷ついた事は謝らねばならないと思った。
「ご…め…。」
「謝らなくていいよ。これは僕が不注意でつけたんだから。」
留姫の言葉をさえぎる。
「！違うでしょ！あたしなんかを庇ったりしなければ…」
あくまで自分を庇うジェンに向かって、留姫は大きな声をあげた。
上げながら、まっすぐに見つめている健良の顔を見つめ、やがて視線を落としながら呟いた。
「…ごめんなさい。」
今度は素直に謝る事が出来た。
「いいって、たいした事ないし。」
やさしく健良は微笑んだ。
「でも、それじゃ、あたしの気がすまないし…何かする事ないかな。何でも言う事聞くから…。」
「いいよ、別に。」
「いいから、言ってよ。」
断る健良に留姫は詰め寄った。
「気がすまないから…何か言いなさいよ。」
「…何でもいいの？」
「いいから、早く！」
「本当に？」
「しつこい。」
何かを言う事で留姫の気が済むならと、健良は考え込む。
留姫はその健良の前におとなしく座り込み、言葉を待つ。
「…じゃ、こっちにきて。」
「…は？」
「こっち。」
しばらく考え込んでいたと思ったら、留姫を手招きして、自分の傍へ来るように手招きをし始めた。
なにごとかと近寄った留姫の肩をつかみ、自分の方へ引き寄せる。
「あぁぁぁの？ジェ…ン？」
「黙って。」
伸ばされる手から逃れる事は出来なかった。
留姫はおとなしく健良の胸に顔をうずめた。
「最近、スキンシップがたりなかったからね。こんな機会でもなけりゃ、触れないでしょう？」
「だ、だからって…こんな…。」
ぎゅっと健良は留姫を抱く腕に力を入れた。
その力をこめた意味を留姫は感じ取った。
「大丈夫よ。あたしはここにいるわ。」
「…留姫が離れていかないか、不安なんだ。」
フットワークの軽い留姫は皆といても偵察などにすぐにいってしまう。
危険も顧みずに。
健良はそれが心配でたまらないのだ。
だが、自分も出て行ってしまっては残った仲間がどんな行動をするかもわからない。
この旅が始まってから、いや、留姫に出会ってから感じているジレンマだった。
「大丈夫よ。あんたはあたしが守るから。」
留姫はそっと体を起こす。
いまだ心配そうな顔をしている健良に軽くキスを送る。
「大体あたしが出て行けるのも、あんたがいるからなんだからね。ちゃんとタカト達の面倒、見ててよ。」
やさしく笑う留姫に健良は自分から口付けを送る。
「約束だよ、留姫。絶対僕のもとへ帰ってきてね。」
レナモンが取ってきた薬草で傷の手当を済まし、タカト達のもとへ合流する。
その道すがら、健良はとんでもない事を留姫に耳打ちした。
「留姫って、結構スタイル良いんだね。」
ばっちーーーーん
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