緑の昼下がり

「純、もう帰ろうよ。」
「もう少し～！」
デジタルワールドの森に子供たちの声が木霊する。
「駄目よ、智。純はあぁなったら、絶対止められないんだから…。」
パルモンが智を宥める。
「本当に、光子郎に似てるわね。」
やさしく、テントモンと一緒にいる女の子を見つめる。

「ねぇ、テントモン。これは何？」
「これは…光苔の一種で…ホラこんな風にすると光るんですワ。
…あの…智ハンが怒っとりまっせ？」
「うん。」
テントモンは光苔をいろいろ解析し始めた純のそばによりながら
パルモンと一緒にいる男の子を見る。
「…そろそろや…。」
テントモンがつぶやいたと同時に、大声が聞こえた。
「純のバカーーーーーーーーーー！！！！」

「…ホンマ、ミミはんそっくりやわ。」

「ねぇ。光子郎くん、子供たちはどんな冒険をしてるかしらね？」
ミミが午後の紅茶を入れながら、光子郎に尋ねる。
「そうですね…。向こうの世界を十分楽しんでいると思いますが…。」
プログラムを打ち込む手を止め、ミミにやさしく微笑む。
「…戦いは僕たちの代で終わらせましたから…。」
「そんな心配なんて、してないわよ。だって、テントモンもパルモンも一緒だし、
何より私たちの子供でしょ？…あたしは…。」
ミミは手を止め、うつむく。
「…太一さんが、何の仕事をしているか、知っていますよね？」
光子郎は立ち上がり、ミミをやさしく抱きしめる。
「うん、デジタルワールドとリアルワールドを結ぶ、外交官…でしょ？」
ミミは光子郎のぬくもりに目を細める。
「きっと、太一さんが道を開いてくれますよ。あの時の冒険のように…。」
「ちょっとうらやましくなっただけよ。…どうして大人はデジタルワールドに
いけないのかしらね？」
ミミの問いに光子郎は答えられない。
たとえば、子供にくれべデータ量が多いからとか、純粋でないからとか、
らしき答えは出せるが、それは、ミミの求めている答えではない。
それがわかっているから、答えられない。黙ってミミの頭をなでる。
「泣かないでくださいよ。今に太一さんが道を開いてくれますし、
僕たちもいろいろ研究してみますから。」
どうしてこう、昔から大切な人を慰めるのがヘタなんだろうと思いつつ、
精一杯の言葉をかける。
「うん…。」
小さくすすり泣くミミを光子郎は抱きしめる。
とてもいとおしく感じた。
「ミミさ…。」
「たっだいまーーーーー！！」
「もどりましたー！」
光子郎がミミの顔を覗き込んだ瞬間、元気な子供たちの声が聞こえてきた。
「あーーーーーーーーー！！！お父さん、お母さんを泣かしてる！！」
「ママ、どうしたの？」
ミミが泣いているのを子供たちは目ざとく見つけた。
智は駆け寄り、ミミにしがみつく。
「ママ、大丈夫！？」
純は光子郎に向かい問い詰める。
「いったい何があったんですか？いくらお父さんでもお母さんを泣かすなんて、
許せない。」
「ちょ…。純、落ち着きなさい。」
あわてる光子郎を見ながら、ミミはくすくす笑い出す。
「あ、ママが笑った。」
「大丈夫よ。智も純もあまり光子郎くんをいじめないで？ちょっと、デジタルワールドを
思い出しちゃっただけよ。」
ミミはやさしく子供たちを抱きしめる。
「パルモンは元気だった？」
「うん、ママに会いたいって泣いていた。」
「あ、今日、テントモンから聞いたんだけど…。」
「何ですか？」
出てきた名前に光子郎が尋ねる。
いくら冷静を装っていても、出てきた懐かしい名前に反応してしまう。
「なんだか近々、こっちの世界にこれる様になるみたい。」
「アグモンと太一おじさんが頑張ってるって。」
それだけの話で光子郎は何が起こっているかわかったようだ。
「…まさか、太一さん、あの話をそこまで進めて…。」
「何？光子郎くん、何が起こってるの？」
一人つぶやく言葉にミミが心配そうな顔で尋ねる。
そんなミミを安心させるように、光子郎はにっこり笑う。
「大丈夫ですよ、ミミさん。近日中に嬉しい知らせが伝えられるかもしれません。
それまで、お楽しみに。」
何が起こっているか言う気の無い光子郎をみて、ミミはため息を吐く。
意外に頑固なミミの大切な人は、一度決めた事を絶対に翻すような事はしない事を
良く知っているからだ。
「…解ったわ。でも、その時になったら必ず、一番に教えてね。」
「はい。吉報をお届けできると思います。」
見詰め合う二人の間に、子供たちが割り込む。
「ね～、ママ。何の話なの？」
「お父さん、何が起こるのですか？」
子供たちが不思議そうに質問をする。
教えてくれとせがむ子供たちを見て、ミミはただにっこりと笑うと、
「純、お菓子でも作ろうか。手伝ってくれる？」
「は～い！」
「あっずるい！僕も！！」
「智はいいの。純が頼まれたんだから！」
「二人で仲良く手伝いなさい。」

やがて、泉家から、お菓子の焼けるいいニオイと、幸せそうな家族の笑い声が聞こえてきた。

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